事業者の倒産についての豆知識

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個人事業を経営している方が、事業が立ちゆかなくなって、倒産することを念頭に話を進めます。このような場合も、取りうる手続は事情に応じて様々ですが、事情はさておき、話を進めてゆきます。


事業が立ちゆかなくなってきた場合に、ダメージを最小限に抑えるためには法的手続を取ることが多くの場合、ベストです。ところが、法的手続を取る場合、弁護士費用、裁判所への予納金その他でかなりまとまった額(事件により千差万別ですので、ある数字を示すということはとても難しいのですが、一つ数字を出すとすれば、200万円以上という目安があり得ます。)の法的費用を準備しなければなりません。しかし、事業が立ちゆかなくなったときには、法的費用があるくらいなら事業に回してしまうというのが通例でしょう。ある程度資金に余裕がある段階で弁護士のところに相談に来ていただければ、いろいろな法的手続、あるいは裁判外の手続を検討できるのですが、ここでは、自分の手元にとりあえずほとんどお金がないという場面を想定します。


弁護士がいろいろと検討した結果、破産手続を選択することになったとしましょう。

弁護士が、事業者に破産手続を提案する場合に、考慮する重要な事情は、裁判所への予納金です。

事業者の場合の予納金は、一般の人とは異なり、事業性の廃棄物の処理であったり特別に費用がかかるものですから、一般に高額になりがちです。

もちろん、事業者の場合は事案も複雑なことが多いので、弁護士費用も高額になりがちです。

これらのお金をどうやって用意しましょうか。信頼できる、口の堅い人から、お金を「もらう」ことを検討します。お金を「借りる」だと、最悪の場合詐欺になりかねないので、「もらう」ことが重要です。今までの人間関係や親族関係を使って、できる限りの額を用意します。

それでもまだ集まらないという場合はあるのですが、そのときは弁護士と協議して何とか法的費用は用意します。

point! お金がないから困っているのに、お金を集めることからスタート!法的費用はなんとしてでも用意する。


法的費用のめどがついたとして、次に問題になるのは、破産手続開始申立日です。

破産手続開始申立日には法律上の効果がありますので、慎重に計画を立てなければなりません。

破産手続の準備をしていると知られてしまうと、金融機関に預金を相殺されてしまったり、リース会社に事業で使っているトラックを回収されてしまったり、従業員が大量に退職したり、買掛元や借入元が説明を求めて押しかけたりして、準備作業ができる状況ではなくなることが往々にしてあります。ひどい場合は、仕事用の道具を盗む不届き者が現れることすらあります(これは立派な犯罪ですが、現実として、発生することがあります。)。

ですから、個人事業主本人以外の誰にも、破産手続の準備をしているとはわからないように、水面下で、かつ迅速に破産手続開始申立に必要な書類を作成する必要があります。

手続上最も困ったことになることは、金融機関に預金を相殺されることですので、預金は、全額引き出してしまいます。

一般の個人の方の破産のように、債権者に対して「債権をいくらお持ちですか。」などと尋ねようものなら大混乱になる場合が多いですので、申立人の手元にある資料から、債権額を計算してゆきます。

そのほかにも、破産手続開始申立には大量の書類を用意しなければならないので、これらを急いで集めて、書類に整理して記載する必要があります。

では、いつまでにそうした作業を終えなければならないかです。

普通は、次の大きな支払の日までです。

従業員を多数抱えて行っている事業ですと従業員の給与支払日、銀行借入の返済が多い事業ですと返済日、大量の買掛金がある場合は、その支払日又は手形決済日といった具合です。

大混乱を防ぐためにはその日までに、書類を作成してしまい、破産手続開始申立をしなければならないので大変集中して作業をする必要があります。


point! 次の大きな支払の日までが勝負!缶詰、徹夜してでも書類を作成する!


さて、裁判所に対する破産手続開始申立書をなんとか準備できたとして、その日は朝から全従業員に集まっていただいて、原則として全従業員を解雇し、解雇通知を手渡しします。解雇されてお怒りになる従業員も数多くいらっしゃいますが、事業主の方にはひたすらお詫びいただき、弁護士からは、未払賃金がある場合には、国により未払賃金の立替払事業が運営されており、後々、立替払事業からの補填があり得る(ただし、必ずしも立替払いされるとは限らない。)ことを説明します。

裁判所に破産手続開始申立書を提出するとともに、在庫商品など、運び込めるものは全て鍵のかかる倉庫にしまい込みます。運び込めない物品は、今までどおりの保管をせざるを得ませんが、破産管財人に引き継ぐまでの間、「勝手に持ち去ると犯罪です。」という内容の張り紙を弁護士がして、勝手に持ち去られることをできるだけ防ぎます。

それでも、問い合わせの電話は殺到しますので、弁護士と協議の上、適宜対処します。


point! 破産手続開始申立日は大混乱を覚悟する!


さて、破産手続開始申立をするとすぐに裁判所が破産手続開始決定を下さるというわけではありません。裁判所は、偽りの破産申立ではないかを確認するために、提出した書類を精査し、足りない書類があれば弁護士に、用意するように指示します。

急ごしらえの書類のため、どうしても漏れが出てしまいます。これを修正するためには相当の期間がかかります。


point! 破産手続開始申立後も気を緩めることはできない!


裁判所が真正なものであると判断しますと、破産手続開始決定がなされ、その際に破産管財人が選任されます。

破産管財人が選任されますと、事業主の財産は原則として全て破産管財人が管理することとなり、破産管財人が、現金化可能な財産は現金化し、どうしても現金化できず、持っているだけで費用がかかるような財産は事業主に返還し、法律に定められた順序に従って、各債権者に弁済をすることになります。あるいは、各債権者に弁済をするお金が残らなかったという場合は、裁判所の判断で破産手続が打ち切られます。こうした、破産管財人の業務に、事業主は全面的に協力しなければなりません。というのも、基本的には債権者に対して秘密のうちに、資料が不足する中でぎりぎり認められた破産手続開始決定ですので、最終的な配当又は廃止の判断のためにはきちんとした書類を追加で作成する必要があります。こうした書類の作成は、事業主の全面的な協力なしにはできません。


point! 破産管財人には全面的に協力する!


破産管財人による業務の期間は、事案によりまちまちですが、1年あるいはそれ以上かかるときもあります。

その期間中、何回か「債権者集会」というものが開かれます。

法律上の建前としては、破産管財人による、財産状況の報告なのですが、実質的には、はじめは、事業主による、債権者のみなさまへの謝罪の場であり、回数を重ねるにつれて、破産者の誠意が債権者に伝わると、同情してくれた債権者からは励ましてもらえる場になってゆくことがあります。

債権者のみなさまに納得していただけるよう、誠意を持って破産管財人の業務に全面的に協力することがベストです。


point! 債権者集会で、債権者のみなさまにできるだけ納得してもらう!


最終的に事業主の財産の現金化が完了し、財産の計算が終わると、配当がなされ、債権者のみなさまに、按分で弁済されるか、あるいは「財団不足」といい、配当するお金がないという場合には手続が廃止され、終了します。

破産手続が終了すると、次に、「免責」手続があり、裁判所から免責許可の決定を頂き、これが確定すると、事業主の債務は、税金など一部を除き免責されます。また、破産手続中にかかっていた資格制限なども解除され、「復権」します。


point! 免責許可決定を頂けるまで頑張ろう!


これは、事業者の倒産についてのごく一部の例ですが、法的費用さえ捻出できれば、事業者の倒産も、事業者にとって最も有利な形で進められます。事業が傾いてきたな、このままでは持ち直しは難しいなと思ったら、弁護士に相談されることをお勧めします。私の場合は、お話を伺って、法的費用のめどに応じて、お勧めの手段を回答いたします。相談にいらっしゃったら、すぐに破産手続に向かってまっしぐらということはしていませんので、とりあえず、法的費用ってどれくらいになるのだろうか、という段階で御相談いただけますと、その回答を踏まえて、もうちょっと事業を頑張ってみようか、あるいは、あきらめようかの判断をしていただけると思います。