自動車保険の入り方

取扱業務 交通事故その他の事故 自動車保険の入り方

和歌山県庁にて交通事故専門相談員も務めた経験から、交通事故に深く関係する自動車保険の入り方についてアドバイスがあります。


自賠責保険、いわゆる強制保険はみなさま加入されていると思います(加入していない人はすぐに車検を受けて加入してください!)。


任意保険について、加入されていない方も案外多くいらっしゃいますが、自動車に乗るとどんな事故を起こすかわからないので、是非とも加入しておくべきです。


では、任意保険にはどのように入ればよいでしょうか。


対人無制限は常識ですね。対物はどうしましょうか。フェラーリ一台と事故をしても5000万円くらいですむだろうから、対物は無制限でなくてもよいかな、とお考えのあなた、それではだめですよ。競走馬を積んでいるトラックと事故を起こして競走馬が骨折したらどうします?対物賠償額は1億円を超えるかもしれません。フェラーリのオーナーのオフ会に突っ込んでフェラーリ5台を全損するかもしれません。対物も無制限で加入するべきです。


「対物超過修理特約」はどうしましょうか。ややこしい制度なのですが、対物賠償責任保険でカバーされるのは、壊してしまった相手所有物の「時価額」までです。特に問題となりやすいのは自動車と自転車です。自動車の時価額は、15年も乗った車だととても低いです。数万円ということもあります。自転車の場合、2年乗っていれば会計理論上は1円です(!)。いわゆる「経済的全損」という問題です。日常の足として使っている15年間乗っている車を壊されて、数万円手渡されて、「保険会社が関与するのはここまでです。後は当事者同士で話し合ってください。」だと15年間乗っている車を壊された人は納得しませんよね。「数万円では修理代も払えないし、代わりになる車も買えないじゃないか。」ということです(しかし、法律的にはそうなのです。)。このような場合でも、修理代の実費(ただし、保険会社により上限があります。)は保険会社が法律外のサービスとして支払います、というものが対物超過修理特約です。修理されれば、数万円手渡されて「保険会社が関与するのはここまでです。後は当事者同士で話し合ってください。」よりは断然マシですので、相手の所有物の補償に関するもめ事が起きにくくなります。対物超過修理特約も加入しておくべきでしょう。


運転者の範囲はどうしましょうか。一人暮らしで自分しか乗らないから「記名被保険者のみ」にします?保険料との兼ね合いもありますが、いかなる場合でも「運転者を限定しない」にしておくことをおすすめします。友達と出かけて、一瞬友達に運転を代わってもらった時に友達が事故を起こしました。さあ大変。友達が自分の車を持っていて、任意保険に加入していれば大抵は他車特約というものが使えて、友達の保険会社が対応します。しかし、友達が任意保険に入っていなかった場合、友達だけでなく、「運行供用者」であるあなたにも損害賠償の責任が生じます。自動車事故は、通常は運転者同士の問題なのですが、人身が絡む場合、自動車の「運行供用者」、多くの場合、自動車の所有者も責任を負う者になってくるのです。自動車の所有者である限り、誰が運転しても他人に迷惑をかけないように心がけておきたいものです。


ここまでは、他人に迷惑をできるだけかけないという意味でのお話ですので、比較的簡単だったと思います。ここからは、自分をどう守るかというお話しです。


「人身傷害特約」はどうしましょう。これは、自分にも過失がある場合や、相手が無保険ですんなりと治療費の支払いが受けられないというときに威力を発揮する保険です。ここで、ポイントになるのが「過失」です。複雑な事故の場合、「過失割合」の話がまとまらず、治療費相当額の損害賠償金の支払が遅れることがあります。しかし、病院に治療費はすぐに支払わないといけませんし、非常に困ったことになります。そこで登場するのが「人身傷害特約」です。過失割合にかかわらず自分が加入している保険会社が治療費相当額を一定限度まで支払ってくれるので、治療費を気にすることなくけがの治療に専念できます。しかも、過失割合は、後で保険会社同士で決めます。ですので、人身傷害について自分の費用で弁護士に依頼する必要がない場合もあります。事故の人身損害部分を全部保険会社に任せられるのはとても心強いですね。ただし、人身傷害特約にも弱点があって、治療費については概ね支払ってくれるのですが、慰謝料等の算出基準が裁判基準よりも低いことが多いことです。なお、裁判基準だと過失相殺により削られる損害賠償額の部分を人身傷害特約が補ってくれる(約款によるので、よく確認しておいてください。)ので、双方過失ありの事故で、保険会社を飛び越えて当事者同士の裁判までもつれ込んだ場合にも役立つ保険です。保険の中には人身傷害特約を使っても等級ダウンにならないものがあることも嬉しいポイントです。


「搭乗者特約」はどうしましょう。見舞金程度の低額の支払しかありませんが、その分保険料も安いので、マストとまではいえませんが入っておいてもよい特約だと思います。


「車両保険」はどうしましょう。これは保険料がぐんと跳ね上がるので加入をためらう保険です。しかも、使うと等級ダウンするので使い勝手が悪いとの評判もある保険です。しかし、トラブルになるべく巻き込まれたくないというのであれば、加入しておいてもよい保険です。人身傷害特約のところで述べましたところと似ていて、双方過失ありで、過失割合に争いがあっても、車両保険があれば自分の車は修理されて、あとは原則として保険会社同士の話になります。


「弁護士特約」はどうしましょう。これは是非とも入っておきたい保険です。できれば、交通事故だけでなく、日常事故もカバーするものに入っておくことが望ましいです。弁護士特約があれば弁護士に依頼して有利な解決を図れたのに、弁護士特約に入っていなくて、弁護士費用がないために有利な解決を図れなかったという事例は数多くあります。お守りとして入っておくべき保険です。ただし、家族の誰かが入っていればそれでカバーされる場合もあるので、加入の要否は保険会社とよく相談しましょう。


「個人賠償責任特約」はどうしましょう。これも是非とも入っておきたい保険です。自転車事故に適用されることは有名ですが、冷やかしで入った高級食器店で間違って食器を割ってしまった場合や、飼い犬が他人をかんだ場合など、予期せぬ賠償責任が生じても限度額までは保険会社が支払ってくれます。支払ってくれるだけでなく、一定の場合には、人身傷害特約や車両保険のように、対応を保険会社に任せきりにすることもできます。ただし、家族の誰かが入っていればそれでカバーされる場合もあるので、加入の要否は保険会社とよく相談しましょう。


事故の賠償と保険はとても難しいので、応急処置がすんだら、すぐに自分が加入している保険会社と相談すべきですし、できれば、弁護士にもすぐに相談するべきです。弁護士特約に入っていると、保険会社の承認が下り次第すぐに弁護士に相談できるので心強いです。そして、普段から保険のことをしっかりと考えておくことが大切です。