弁護士前畑壮志の雑感

「ねこすけ」とその仲間たちのお話として弁護士前畑壮志の雑感を記します。あくまで雑感ですので,文献的根拠はほとんどありませんし,表明される見解が正しいかどうかも保証いたしかねます。単なる読み物としてお読みください。

ねこすけ

ねこすけと仲間たち

ねこすけは一人で法律事務所を切り盛りしている弁護士。ねこたろうたちはその友達。ねこたろうは司法試験を受けようかなとちょっぴり思っている。

改憲

ねこたろう:最近,猫の国憲法改正の話が出ているけれど,自衛隊を猫の国憲法に書く必要があるのかな。

ねこすけ:ない。

ねこたろう:ぶっきらぼうだね。ねこすけは,現行猫の国憲法の下で自衛隊は合憲だと思っているのかい。

ねこすけ:合憲だと思うよ。

ねこたろう:てことは,ねこすけは改憲議論では自衛隊の部分は関知しないってことだね。

ねこすけ:そうだね。自衛隊の部分に目くらましをされておかしな条項を盛り込まれることの方がよっぽど困るよ。

憲法と戦争

ねこたろう:どうして現行猫の国憲法の下で自衛隊が合憲だと思うのだい。

ねこすけ:戦争は意思と能力で構成されるよね。

ねこたろう:そうだね。

ねこすけ:猫の国憲法9条1項では戦争の意思がないと書かれていて,同条2項では戦争の能力を持たないと書かれているね。

ねこたろう:そうだね。

ねこすけ:では,猫の国は戦争をできないね。

ねこたろう:そうだね。しかしまた,いつものいじわるな言い方だね。ねこすけが,現行猫の国憲法の下で猫の国が戦争を遂行できるし自衛隊は合憲であるという結論を持っていそうなのはわかったから,猫の国憲法9条をどうやってクリアするんだい。

ねこすけ:そのためには,国際法をおおざっぱにでもいいから知る必要があるよ。

国家と政府と自衛隊

ねこすけ:近代主権国家体制では,国連の登場などでずいぶん変質はしているけれども,各国家は自主独立していることが建前だよね。

ねこたろう:そうだね。

ねこすけ:各国家が自主独立を失ったらどうなるのかな。

ねこたろう:国際法上の,「征服」や「併合」などで,国家そのものが消えてしまうね。

ねこすけ:ある国内でクーデタなどが起こって政府が交代したら国家はどうなるのかな。

ねこたろう:政府が交代しても,国際法上,国家には何らの影響はないね。猫の国は署名していないけれども,慣習国際法を体現していると評価してもよい,国家承継条約はあくまで国家の変動についての条約であって,政府が変動した場合の慣習国際法は,「新政府は国家を束縛する条約その他の国際法に引き続き束縛される。」だろうね。

ねこすけ:国家と政府という似て非なるものに気をつけつつ,猫の国憲法はどういう法規だろうか。

ねこたろう:国家ではなく,政府への制限原理だね。

ねこすけ:そう。猫の国憲法は政府の行為を制限するけれど,国家の行為は制限できないんだ。国際法において,国家を束縛できるのはあくまで他の国家との合意だけであるということは了解いただけるかな。

ねこたろう:ある領域内の自然人は,領域に対して権力を行使する政府を拘束することはできるけれども,その背後にある法的存在たる国家には手出しができないということだね。了解。でも,なんだか天皇機関説否定,国体明徴声明のようで気持ち悪いね。

ねこすけ:あの件は国家と政府という区別をいまいち明確に意識しなかったために,話が全然かみ合っていないばかげた事件だと思うよ。大猫の国帝国という政府の下では,天皇は政府の機関として位置づけられるけれども,当時の猫の国という国家においては天皇そのものが国家であるという見方ができ,それら二つは併存していたと思うよ。

ねこたろう:戦前の国体論はなかなかに興味深いけれども,とにかく,自衛隊がどうして合憲の存在になるのかの話を続けてよ。

ねこすけ:社会契約説同様に,フィクションなのだけれども,猫の国という国家に自然発生的に武装勢力がいるとして,それが領域内の自然人に迷惑をかけてほしくない,あるいは領域内の自然人の役に立つものにしたいと思った猫の国の人民はどうするかな。

ねこたろう:とりあえず,猫の国の政府に,管理をしてもらうかな。

ねこすけ:そういうこと。

ねこたろう:実際の経緯とは全然違って,フィクションになってしまうけれども,自衛隊を猫の国の政府の固有の機関ではなく,猫の国の政府が,猫の国憲法には書かれていないけれども人民の信託を受けて管理している外部団体であるととらえれば,自衛隊と猫の国憲法の整合性はとれる,猫の国憲法9条2項によっても自衛隊の存在は合憲であるということができるということかい。つまり,自衛隊が戦力であることを前提として,猫の国の政府は戦力を「保持」していない,猫の国の国家が「保持」している戦力を猫の国の政府は「管理」しているだけだというわけだね。

ねこすけ:詭弁的だけれどもそういうこと。何も成文憲法だけが憲法ではないわけだから,国民が政府に信託するものが全て猫の国憲法に記載されているとは限らないからね。国民が武装勢力の管理を不文憲法により猫の国の政府に信託したと考えるわけさ。戦争放棄が猫の国憲法の権利保障の部分ではなく,独立した章に書かれていることからも,このような不文憲法による信託という理論構成は許されると思うよ。だから,僕は自衛隊法は自衛隊存在の根拠法ではなく,自衛隊を管理するための行政管理法だと考えているよ。次は,猫の国憲法9条1項をどう考えるかだね。

文言どおりに

ねこすけ:猫の国が宣戦布告を受けたときに猫の国は反撃のための戦争をできるのかな。

ねこたろう:反撃行為,つまりミサイルを撃ち落としたり敵上陸戦力を殲滅したりといった防衛行動だね,も「国権の発動」であるから,できないのかな。

ねこすけ:猫の国憲法9条1項を最後まで読んでみなよ。

ねこたろう:なになに,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する,とな。では,「国際問題を解決する手段」でなければ戦争は放棄されていないということね。

ねこすけ:そう。「国際問題を解決する」ためでなければ戦争は許されているわけだ。

ねこたろう:それでは,どういう場合が「国際問題を解決する」ためではない場合なのだい。

ねこすけ:猫の国の政府が「国際問題を解決する」ためではないと考えた場合さ。

ねこたろう:それでは猫の国の政府はいつでも戦争ができるということじゃないか。

ねこすけ:法律上はね。

ねこたろう:またいじわるな言い方をしているね。

ねこすけ:僕だって戦争がそうそう起こってもらっては困るよ。

ねこたろう:あたりまえだ。

責任

ねこたろう:猫の国憲法は猫の国がなるべく戦争をしないようにどのような手立てを講じているのかな。

ねこすけ:責任だよ。

ねこたろう:そんな簡単なことかい。

ねこすけ:大猫の国帝国のように,軍令や宣戦が天皇大権であり,説明も責任も一切不要であったのとは異なり,猫の国憲法の下では,内閣がきちんと国会に説明できない限り,「責任」をとることになってしまう。戦争のようなハイリスクな行為をわざわざしたがる内閣が果たしているのかどうか。敗戦して「責任」をとらされるくらいなら先に内閣総辞職をするという選択をするのがたいていの場合合理的ではないかな。

ねこたろう:内閣や国会がそこまで考えているとも思えない節もあるけれど,まあそうなのかな。このあたりは,近衛内閣のあたりの時局とそれに対する歴史の評価をきちんと読み解く必要がありそうだね。

ねこすけ:そうだね。

ねこたろう:ねこすけはやっぱり現行猫の国憲法の下で猫の国が戦争を遂行できるし自衛隊は合憲であるという結論を持っていたわけだね。

ねこすけ:そうだね。だから,僕は猫の国憲法を改正する必要はないし,猫の国憲法の他の条項をいじるつもりなのであれば,改憲することが相当でもないと思うよ。