弁護士前畑壮志の雑感

「ねこすけ」とその仲間たちのお話として弁護士前畑壮志の雑感を記します。あくまで雑感ですので,文献的根拠はほとんどありませんし,表明される見解が正しいかどうかも保証いたしかねます。単なる読み物としてお読みください。

ねこすけ

ねこすけと仲間たち

ねこすけは一人で法律事務所を切り盛りしている弁護士。ねこたろうたちはその友達。ねこたろうは司法試験を受けようかなとちょっぴり思っている。

裁判所は内閣と国会に負ける

ねこたろう:裁判所って頼りになるの?

ねこすけ:何を言っているんだい。裁判所が頼りにならないと,とても困るよ。

ねこたろう:内閣は警察や自衛隊といった本格的な武装した勢力を手中にしているよね。国会については,衆参両議院が独自に「衛視」という,ごく簡単とはいえ武装した勢力を持っているよね。でも,裁判所には専門の武装勢力が全くいないよね。

ねこすけ:たしかに。裁判所は,執行官も含めて,簡単であっても武装した勢力を全然持っていないね。でも,国家機関の間で,武装した勢力が問題になるのはクーデターなどのよっぽどの時だけだからそこは気にしなくてよいのではないかな。

ねこたろう:全ての国家機関が猫の国憲法を守るのなら,武装した勢力の有無は問題ないだろうけど,少なくとも,ある国家機関が猫の国憲法の統治秩序を実力で破壊しようとするような極限的な場面では裁判所は無力だね。

ねこすけ:そういわれるとそうだね。

ねこたろう:極限的状況でないとしても,裁判所は内閣と国会に勝てっこないのではないかな。

ねこすけ:「権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていない社会は,およそ憲法をもつものではない」というフランス革命期の思想を受け継いでいる猫の国憲法では,国家権力は行政権,立法権,司法権に分解されていて,裁判所は内閣に対して個別の行政行為を取り消してしまう権限など,そして,国会に対して違憲立法審査権が与えられているから裁判所は内閣や国会と渡り合えるのではないかな。

ねこたろう:でもさ,行政処分の取消判決を出しても行政庁がそれを守らずに断行すると裁判所としては実力行使でそれを止めることはできないよね。

ねこすけ:言われてみるとそうだね。

ねこたろう:国会に至っては,ひどくて,猫の国憲法77条1項で「最高裁判所は,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について,規則を定める権限を有する。」と定められているのに,訴訟に関する手続について,民事訴訟法,刑事訴訟法をはじめとした各種「法律」で,弁護士に関する事項について,弁護士法で国会に決められてしまっていて,国会による越権行為が現になされているよ。ついでにいうと,裁判所自身がこれらは合憲だとする判断をしてしまっているよ。

ねこすけ:憲法の文言がそのまま直接に適用されるものであるかどうかは争いうるけど,確かに,憲法の字面を読むと最高裁判所規則で定めるべき事項を国会に決められてしまって,それに裁判所が抵抗できないでいるように見えるね。

ねこたろう:そもそも,「司法権」の定義が,「具体的な争訟において,法を適用し,宣言することによってこれを裁定する国家の作用」となっていて,「具体的な争訟」の定義が当事者の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつそれが法律を適用することにより終局的に解決することができるもの」となっていることからして,「具体的な」争いがない限り裁判所は何らの宣言もできず,内閣や国会を掣肘することができないね。

ねこすけ:おっしゃるとおり。

ねこたろう:裁判所に割り当てられる予算って,内閣の予算提出権に基づいた予算案を国会が可決して決めるから結局,裁判所は内閣と国会には逆らえないんじゃない。予算を握られている以上,裁判所は,内閣と国会のコントロール下にあるというべきではないかな。

ねこすけ:「予算」が歴史上これまでに果たしてきた役割に照らすと,認めざるを得ない事実だね。

裁判所は無力なのか

ねこたろう:ということは,裁判所は実は権力分立の一角を構成しているとまではいえなくて,いわば半人前ではないのかな。

ねこすけ:結構言うねえ。でも,考えてもみなよ。国民の多数派から締め出され,たった一人で内閣及び国会から迫害されている国民に対して,「あなたは間違っていない。あなたを助けることを許可する。」と宣言してくれる可能性がある国家機関がある,それだけでもすごいことではないかい。

ねこたろう:でも内閣や国会が無視してしまえばその人は救われないよね。

ねこすけ:即物的な考え方をするね。でも,1つの国家が,一方では国民のうち一人を悪者にしようとしている時に,他方で「あなたは悪くない。」と言ってくれる,国家意思が分裂するということは,とても不思議な感じがしないかい。

ねこたろう:まあ,感じだけだけどね。

ねこすけ:もっとわかりやすくしてしまおうか。他の国家と自動執行的ではない条約について,内閣は署名した,国会も批准した,だけれども裁判所が違憲と宣言したので国内施行法の適用は条約の文言と全然異なる内容になっている,このような場合,相手国としてはどう思うだろう。

ねこたろう:条約違反だと思うだろうね。

ねこすけ:相手国はかんかんに怒って条約破棄をされてしまうかもしれないね。条約の内容によっては戦争かもしれないね。

ねこたろう:戦争になりそうな条約違反だったら,さすがに内閣や国会は裁判所の違憲判決を無視するのではないかな。

ねこすけ:それってつまり,猫の国憲法に基づく統治機構の破壊だよね。

ねこたろう:国家意思が分裂するって怖いことだね。

ねこすけ:政府あるいは最悪の場合猫の国憲法に基づく統治機構を破壊しかねない行為というとんでもない行為をする権限を裁判所は憲法から授権されているね。

裁判所の権力

ねこたろう:さっきまで裁判所は内閣と国会にやられっぱなしだったけれどもここではじめてまともな対抗手段があることに気づいたね。

ねこすけ:でしょ。猫の国憲法下における裁判所の政治的役割は,政治が暴走して猫の国憲法の基礎的価値観を破壊するような事態となったときに,猫の国憲法に基づく統治機構を法的に破壊してしまうところにあるのではないかと思うんだよ。

ねこたろう:裁判所にずいぶん重たい役割を持たせたね。

ねこすけ:そうすると,仄聞した,「国家が転覆する」(からそのような内容の判決は書けない。)という,最高裁裁判官の発言はまさに政治的決断の言葉だったということになると思うよ。

ねこたろう:ところで,民主的意思は内閣及び国会に十分反映されているよね。裁判所に対する民主的統制が,最高裁長官の指名と最高裁裁判官の国民投票だけになっているというのはいわば自然なことなのかな。

ねこすけ:僕はそう思うよ。民主的意思が予算その他の方法で裁判所をいじめるのに対して,裁判所は猫の国憲法に基づく統治機構破壊という究極の技を出すことをちらつかせてこれを抑制する,というのが裁判所に関する権力分立の1つ掘り下げた理解だと思うよ。

ねこたろう:裁判所は非政治的国家機関などではなくて,政治的国家機関であるということだね。

おとな

ねこすけ:内閣や国会と裁判所は政治的緊張関係にあるということがわかったところで,ねこたろう,僕の好きな話が思いつかないかい。

ねこたろう:統治行為論だね。

ねこすけ:そのとおり。裁判所が法的判断を放棄したとして不評な理論だけれども,僕は時の最高裁裁判官たちの叡智の表れだと思うよ。緊張関係にあるもの同士が互いの核心を攻撃しようとすれば,当然全面対決になってしまう。内閣や国会は裁判所に予算をつけない,裁判所はあらゆる行政,立法行為に対して違憲判決を出すというのではもはや統治体の体をなさなくなってしまうね。これを避けるためには,内閣・国会に対して,裁判所が遠慮するという政治的判断が必要な場面もあるはずで,こういうときに統治行為論は便利だと思うよ。統治行為論の理解については本当はもっと深く調べないといけないのだけれども,今の文脈ではこの程度の理解で十分だと思う。

ねこたろう:では,内閣や国会が裁判所に遠慮したことはあるのかい。

ねこすけ:例としては,尊属殺重罰規定の運用停止であるとか,最高裁判例をむやみに法律でオーバーライドしないであるとか,内閣,国会も裁判所に対して遠慮しているよ。

ねこたろう:裁判所も物事について法的判断をするのが職務である一方で,猫の国憲法の統治の規定に配慮して政治的判断をすることも必要となると大変だね。

ねこすけ:物事往々にしてそうだけれども,声が大きい人の言うことが正しいとは限らないから,そして,誰も言っていないことが重要だったりするから,自分の頭で考えて洞察しないといけないね。