単価を下げられた工場が、空を飛ぶ部品で立ち直るまで

当事務所では、米国MBA学位を保持する弁護士前畑壮志が、経営学的観点から徹底したアドバイスを行っています。

静かに下がっていた数字

ある町工場は、大企業の下請けとして、金属や塩化ビニルといったありふれた素材から、指定された仕様の部品を、指定の納期に、指定の場所へ収める仕事を、長年続けてきました。

ある月、発注書に記された単価が、わずかに小さくなっていることに、経理担当者が気づきました。問い合わせると、返ってきたのは「間違いではありません、その条件で御納品ください」という一言だけでした。工場はそのとおりに納品を続けました。

これは、取引上の優越的地位を利用した一方的な単価の引下げではないか。工場の代表はそう疑いました。しかし、事態は単純ではありません。声を上げて自社の名前が明らかになれば、契約を切られてすぐに立ち行かなくなる。かといって、下げられた単価のまま取引を続けても、原材料費や人件費の上昇に押しつぶされ、いずれ立ち行かなくなる。進んでも退いても、同じ場所に行き着くように見えました。

公取になんとかしてほしい。しかし、声を上げて自社の名前が明らかになるのは避けたい。「声を上げるべきか」ではなく、「声の上げ方」が問題です。自社の名前を伏せたまま情報を届ける経路があること、そして、その経路が業界全体の実態把握につながる可能性があることを、工場の代表は後になって知ることになります。

息子と、日の目を見なかった研究

そんな折、ある大学の工学部でマテリアル工学を学んでいた長男が、実家の工場に戻ってきました。大学時代の研究テーマは、曲げることができるセラミックス製の管でした。硬く割れやすいセラミックスを、折らずにしならせる。狙いは面白いものでしたが、狙った性能に届かず、論文として発表されることはなかったといいます。

その話を聞いた工場の代表は、ふと思いつきました。過酷な高温・高圧にさらされる航空宇宙用のエンジン部品になら、その「曲げられる」という特性こそが求められるのではないか。長男は工場の隅を借りて研究を続け、やがて、実用に耐える水準まで、その技術を完成させました。

守るか、隠したまま使うか

技術が完成した以上、次に考えるべきは、これをどう守るかでした。特許を取って公開し、他社の模倣を排除する道具として使うか。それとも、あえて特許は取らず、製法を秘密にしたまま自社だけがこれを作れる状態を保つか。

工場が持つ設備や技能そのものが、簡単には真似のできない性質のものかどうかが、判断の分かれ目でした。特殊な焼成炉や、長男が培った勘所は、図面や特許の文言だけでは他社に伝わらない類のものでした。であれば、特許を取って世に示しつつ、実際に量産できる力は自社にしかない、という状態を作ることができます。工場は、守りながら攻める道を選びました。

この技術は、会社のどこに立っているのか

長年続けてきた部品の受託製造は、大きくは育たないものの、確実に現金を生み続けてくれる事業でした。一方、曲げられるセラミックス管は、大きく育つ可能性を秘めながら、まだ一円の利益も生んでいない事業です。両者は、会社の中でまったく異なる場所に立っていました。今までの取引先とも、今までの素材ともまったく異なる、未知の市場・未知の製品への踏み出しです。既存事業が生む現金を、どこまでこの新しい芽に振り向けるか。工場の代表にとって、これは避けて通れない問いでした。

誰に、どう届けるか

技術ができても、それだけでは事業になりません。過酷な条件で使われる部品を求めているのは誰か、その顧客はどのような基準で調達先を選ぶのか、同じような技術を持つ会社が他にいないか。工場は、自動車部品の下請けとして培った品質管理の実績を武器に、まずは航空宇宙エンジンメーカーの中でも、特に高温部品の調達に悩む一社に絞って売り込むことにしました。価格は、量産部品としてではなく、開発段階の試作品として提示し、まず信頼を築くことを優先しました。

契約に、危険をどう書き込むか

新しい素材である以上、まだ知られていない危険性が潜んでいるかもしれません。この点をどう契約書に落とし込むかが、次の課題でした。納入した部品に起因して生じた損害について、工場側が無制限に責任を負う形にはせず、開発段階の試作品であることを踏まえた責任の範囲を、相手方との交渉によって契約書に明記する。技術を育てる契約と、会社を守る契約は、両立させなければなりません。

借りるか、巻き込むか

量産できる製品に育てるには、まだ研究開発の資金が要ります。工場は、航空宇宙エンジンメーカーからの資金提供を検討しました。借入という形にするか、出資を受け入れる形にするか。借入は返済の負担と引き換えに会社の支配権を保てますが、出資は返済の負担がない代わりに、会社の意思決定に相手方の意向が及ぶようになります。どちらを選ぶかは、資金の出し手にどれだけの利回りを約束することになるかという財務の問題であると同時に、この工場をこれからも自分たちの手で経営し続けられるかという経営の問題でもありました。

この物語を、御自身の会社に重ねてみると

曲げられるセラミックス管のような発明は、多くの企業にはないかもしれません。航空宇宙という舞台も、身近には感じられないでしょう。しかし、この物語の骨格そのものは、業種や規模を問わず、驚くほど多くの企業に当てはまります。

取引先から一方的な条件変更を持ちかけられても、契約を切られるのが怖くて声を上げられずにいる取引はありませんか。従業員や御家族の誰かが、日の目を見ないまま温めている技術や知見、あるいは長年の経験の中で培った勘所が、社内のどこかに眠ってはいませんか。それを公然と守るべきか、社内だけの秘密として抱え込むべきか。育てるための資金を、誰から、どのような形で調達すべきか。会社の支配権を手放さずに成長するには、どこまで譲れるのか。

この工場が特別だったのではなく、たまたま声に出して整理する機会があっただけかもしれません。御自身の会社の中にも、同じ構造の問いが、まだ言葉にならないまま眠っているとしたら。それを一緒に言葉にするところから、御相談は始まります。

結び

いかがでしたでしょうか。実はこの物語では、MBAにより体系化された、再現可能性がある理論と法務が渾然一体となって書かれています。皆様、おそらく、経営と法務の分断をあまり感じることなくお読みになれたのではないでしょうか。MBA経営コンサルティングでは、このような、シームレスな、経営と法務が統合された支援を期待していただけます。一方的な単価の引下げにどう向き合うかという法務の問題と、隅っこの研究をどう事業に育てるかという経営の問題は、別々の出来事のように見えて、実はひとつの工場の中で同時に進んでいきました。経営の問題と法務の問題のいずれも扱えるMBA経営コンサルティングだからこそ、こうした複雑に絡み合った状況の中から、企業が将来にわたって生み出し続けるキャッシュフローの現在価値を最大化する機会をつかむお手伝いができるのです。

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