事業・会社についての豆知識
取扱業務 事業・会社 事業・会社についての豆知識
事業・会社にはいろいろなパターンがありますが、ここでは、個人事業からスタートして法人成りし、事業を次の人に引き継ぐ、というサクセスストーリーに単純化して話を進めます。
個人事業として、鉄筋の卸業を始めることにした山田さん。まずは、税務署その他の官公庁に個人事業の開始を申告しなければなりません。また、毎年12月には決算ですので、適切な確定申告をしなければなりません。鉄筋の卸売業に許認可が必要であれば、許認可官庁から許認可を頂く必要があります。このあたりは、税理士の先生や行政書士の先生の分野でしょうから、弁護士が関与することは少ないでしょうし、また、あえて弁護士が積極的に関与する必要性が高いとはいえないでしょう。
point! 最初の一歩は弁護士なしでも踏み出せる?
鉄筋の卸売業をする以上、まずは鉄筋を仕入れなければいけません。
山田さんは仕入れ元として、株式会社西村製鋼所と、鉄筋の売買契約をすることになりました。
さて、この鉄筋の売買契約は、取引基本契約書と個別の注文書・注文請書により構成される二段階の売買契約です。取引基本契約に山田さんにとって著しく不利な内容はないでしょうか。あるいは、注文書を送付したら、確実に納期までに納入してくれるでしょうか。契約書の内容を弁護士に確認してもらって、不利な部分についてアドバイスを受け、不利な部分と値段を天秤にかけて、契約するかどうかを検討する必要があります。場合によっては、弁護士に依頼して契約書を作成し直してもらったり、あるいは内容をがらりと変えるということで、弁護士に契約締結交渉も依頼する必要があるかもしれません。
弁護士が、取引基本契約書を点検したところ、内容はおおむね山田さんが思っているとおりの内容でしたが、なんと、株式会社西村製鋼所側の記名押印が、「株式会社西村製鋼所和歌山営業所長石田三成」になっているではありませんか。よくある問題点ですが、株式会社西村製鋼所と契約をしたといえるためには、(支配人等でない限り)西村製鋼所の代表取締役と契約をすることが最も安全です。弁護士から、アドバイスを受けた山田さんは、株式会社西村製鋼所側の記名押印を「株式会社西村製鋼所代表取締役西村一郎」にしてもらって事なきを得ました。
point! 仕入れ元との契約に地雷がないか、弁護士の関与がある方が適切なリスク評価ができる!
さて、株式会社西村製鋼所から鉄筋を仕入れることにした山田さん。鉄筋の代金はどうやって支払いましょうか。手形で支払うというと、株式会社西村製鋼所が難色を示しました。事業を始めたばかりの人の手形は受け入れられないというのです。株式会社西村製鋼所の言い分ももっともです。山田さんには、父から相続した土地があります。時価500万円程度です。山田さんは、きらきら銀行に、この土地を担保に差し出すから、200万円を貸してほしいとお願いに行きました。そうすると、きらきら銀行は、まず、400万円程度定期預金をしていただかないと融資はできませんとのお返事。お金がないから、お金を借りに行ったのに、逆にお金を預けてほしいと言われる始末。どうすればいいのか山田さん。父から相続した土地を売るしかないのか。その土地は、ゆくゆくは鉄筋のヤードとしても使えそうなのに、どうすればよいのか山田さんは途方に暮れていました。
ここで、山田さんから相談を受けた弁護士が、土地に根抵当権を付けて株式会社西村製鋼所に、支払の確約を打診します。弁護士から根抵当権の内容について説明を受けて、納得した株式会社西村製鋼所は200万円までの範囲で取引をはじめてくれることになりました。
point! 弁護士は債権回収のプロ。だから、相手の立場に立って、債権の支払を確実にし、相手の信用をもらえるようにがんばれる!
次に、山田さんは、鉄筋の小売りをしている一条さんに鉄筋を卸すことにしました。でも、先ほどの株式会社西村製鋼所の立場と同じ立場に置かれる山田さん。一条さんには特に財産がないので、根抵当権を付けるべき財産がありません。弁護士は、まずは、動産売買先取特権と物上代位の制度を山田さんに説明しましたが、山田さんから、「一条さんは小売りメインなので、物上代位難しくないですか。」と鋭い御指摘。これは困った。でも、一条さんの倉庫には、鉄筋だけではなく、セメントやコンパネ、ねじ釘のたぐいなど、結構な額の商品があるようです。弁護士は、これに集合動産譲渡担保を付けることにしました。「集合動産譲渡担保って何?」という顔をする山田さんに弁護士が、説明すると、なるほど、対抗要件の具備をしっかりすればわりと便利な集合動産譲渡担保。山田さんも安心して、一条さんに鉄筋を売ることができます。
point! 弁護士は債権回収のプロ。だから、できるだけ自分への支払の確保もできる!
さて、鉄筋の卸売業も軌道に乗ってきて、所得税諸々を考えると、法人成りした方がよいよ、と税理士の先生からアドバイスを受けた山田さん。会社を作ることにします。
会社といえば、一昔前は有限会社か株式会社かで最低資本金額に差があって、云々という規制がありましたが、今は最低資本金額の規制はありません。では、株式会社山田商店を作ろうかなと考えた山田さん。弁護士のところに相談に行きます。
弁護士は、「株式会社にするの?」とけげんな顔。会社を作るのだから株式会社が当たり前だろうと思っていた山田さんは面食らいます。弁護士は続けます。「今は有限会社はないのだけれど、合同会社というものが作られているんですよ。株式会社だと、取締役の任期に制限があったり、毎年、決算の要約の官報公告が必要であったりと、結構維持費がかかるんですよ。その点、合同会社ならその辺りの経費は抑えられますね。ただ、合同会社という聞き慣れない会社について取引先が信用してくれるかは大いに心配ですね。」。ここで思い出した山田さん。「そういえば、検索で有名なグーグルさんって合同会社でしたよね。」。弁護士も続けます。「通販で有名なアマゾンも合同会社ですよ。」。どういう形態の会社にするか考えた山田さんと弁護士は、結局、取引先に無用な心配を与えないようにということで株式会社山田商店を設立することにしました。
point! 法人成りのときは、現在は会社法がいろいろなメニューを用意してくれているので、弁護士と相談して、どの形態を選ぶかよく考えよう!
さて、取引先への挨拶も済んで、順調に事業を拡大していく株式会社山田商店。ここで問題発生。株式会社山田商店の運転資金が一時的に足りないから、山田さんが昔から仲良くしていた大野さんに、株式会社山田商店が第三者から受ける融資の保証人になってほしいと頼むことにしました。大野さんとは懇意にしていたので、大野さんは保証人になってくれることになりました。一応弁護士に相談した山田さん。弁護士からは矢継ぎ早に質問が飛びます。「極度額いくら?」、「書面は作るの?」。答えられない山田さん。弁護士が続けます。「最近は、保証に関する法規制が厳しくなっているから、昔のように、口頭で、ざっくりと「保証します。」では通用しなくなってきているのですよ。保証契約に関して確実にするためには慎重にならないといけませんよ。」。結局山田さんは、大野さんの保証について、法的に整った状態で保証してもらうことができました。
point! 保証は一大事!弁護士の専門的知識が生かされる!
どんどん大きくなる株式会社山田商店。でも、従業員との間でトラブル発生。従業員は賃上げされなければストに入ると言い始めています。慌てて弁護士に相談した山田さん。そういえば今まで、従業員関係は社会保険労務士の先生に任せっぱなしで弁護士には言ってなかったなあ。
弁護士は、労働三権について説明して、適法に労使関係を調整する必要があることを山田さんに説明しました。スト直前まで行ったのですが、弁護士のアドバイスに従って、山田さんが誠実な対応をしたために、ストは回避することができました。
point! 労使関係は経営者には避けて通れない問題!適時弁護士の介入を求めるべき。
労使関係も、労働組合としっかりと話し合って、労働協約を結んだほか、就業規則もきっちりと定めて、労使問題はとても円滑に行っている株式会社山田商店。ここでまたもやトラブル発生。従業員の原さんが、休日に酔っ払って他人とけんかして逮捕されたというのです。原さんは、得意先をいくつも持っている重要人物。刑務所に入られては得意先をいくつか失うかもしれません。
慌てて弁護士に相談した山田さん。弁護士は、「原さんの弁護内容は守秘義務により教えられないけれど、原さんを最大限有利になるようにがんばります。」と言って、刑事弁護の依頼を受けました。果たして、弁護士の尽力もあり、原さんは、逮捕から11日後に釈放され、元通りの職務に復帰しました。
point! 従業員が時々起こしてしまう刑事事件!
株式会社山田商店も大きくなってきて、不採算部門の切り離しや、他社の買収なども考えるようになった山田さん。またもや弁護士に相談します。
「不採算部門の切り離しには、事業譲渡、会社分割といった方法があります。それぞれ一長一短があるのでよく検討する必要がありますね。他社の買収については、他社のどの部分を買収するかにもよりますが、合併、会社分割、事業譲渡といった方法があります。これもそれぞれ一長一短があるのでよく検討する必要がありますね。
point! 非上場企業でも、M&Aはあり得る!こういうときに弁護士は力になります!
株式会社山田商店の事業も十分成長したし、そろそろ隠居して、次の世代に株式会社山田商店を引き継ぎたいと考えた山田さん。弁護士に相談します。。
「これは難しいですね。長男さんに経営権を付与したいということですと、長男さんに3分の2を超える議決権を付与する必要がありますね。では、種類株式を発行して無議決権株式を作って、長男さんには普通株式を、長男さん以外の相続人には無議決権株式を相続させることにしましょう。ただし、普通株式と無議決権株式の評価額がゆくゆく争いになるかもしれないので、十分注意して分配しましょう。」と弁護士。
point! 次世代への事業の引継ぎは、会社法と相続法のいずれにも精通した弁護士に助言を求めるとよい!
おっと、ここで問題発生。大型の売掛金が焦げ付いてしまい、かといって、買掛先への支払はしなければならないし、従業員の給料も払わなければならない、借入金の弁済もあるし資金繰りがかなり悪くなってしまったという最悪の状態。隠居直前になんてことだと意気消沈の山田さん。とりあえず弁護士のところに相談に行きます。
「株式会社山田商店さんは、銀行からの借り入れが重たすぎるようですね。ここを圧縮してもらえば再起可能なはずです。債権者に納得していただける任意の再建策を提案して、私的整理をしてみましょう。それがだめなら、会社更生か民事再生で乗り切りましょう。」と弁護士。てっきり破産しかないと思っていた山田さんは、やる気を取り戻し、債権者の皆様の応援もあって何とか事業を持ち直すことに成功しました。
point! 最後まであきらめるな!弁護士がよい知恵をくれることもある。
これは、事業・会社に関するきわめて限られた想定でのストーリーですが、皆様の事業・会社にも当てはまる項目があるかもしれません。事業・会社において本業に専念するために、弁護士と上手におつきあいしましょう。